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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(あ)1898号 決定 1964年5月07日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人遠藤徳雄、同横溝貞夫、同横溝善正、同楢原由之、同三浦寅之助、同今富博愛、同黒柳和也、同桃井けい次、同滝島克久、同永田喜与志、同下光軍二、同渡辺治湟の上告趣意第一点は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであるとした原判決の認定は、挙示の証拠関係により是認し得るところであり、原審における所論各鑑定の取捨、判断に所論のような違法は認められない。また所論は大島鑑定書、古賀鑑定書の証拠能力につき云々するが、本鑑定書の作成に宣誓をしない者が共同しているのは、本鑑定の補助的調査に関する部分であって、本鑑定自体は正当な鑑定人によりなされたものであると認められるから、所論は理由がない。また、原判決としては、本件療法が公共の福祉に反するものであることを判断するにつき、それが原判示のように人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであることを認定すれば必要且つ十分であって、所論のように低周波説、高周波説のいずれに基づくものであるかを判示することは必要ではなく、この点についても原判決には所論の違法は認められない。)。

同第二点は、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法一二条の医業類似行為の内容が明確でないことを前提として、憲法三一条違反をいうものである。しかし、前記法律一二条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」と規定し、同法一条に掲げるものとは、あん摩(マッサージおよび指圧を含む)、はり、きゅうおよび柔道整復の四種の行為であるから、これらの行為は、何が同法一二条の医業類似行為であるかを定める場合の基準となるものというべく、結局医業類似行為の例示と見ることができないわけではない。それ故、右一二条が所論のように犯罪行為の明確性を欠くものとは認められず、違憲の主張は前提を欠くものであって、採るを得ない。

同第三点は違憲をいうが、実質は単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(所論「後藤伝」は「後藤博」の誤記であることが記録上認められ、予備的起訴は有効たるを失わず、また変更前の訴因と変更後の訴因とを比較すると、その基本となる事実は、特定の日時、場所において特定人に本件療法を施したという点において同一と認められ、公訴事実の同一性を失うものではない。)。

同第四点は判例違反をいうが、所論引用の判例は、被術者の健康に医学上害を及ぼす虞あるものではないと認められた電気療法に関するものであって、本件とは事案を異にし、本件に適切でない。それ故所論は採るを得ない。

被告人本人の上告趣意(追加上告趣意を含む)一は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であり、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(所論の理由のないことは、前記弁護人遠藤徳雄外一一名の上告趣意第一点に対する説示参照)。

同二は違憲をいうが、所論の採ることを得ないことについては、前記弁護人遠藤徳雄外一一名の上告趣意第二点に対する説示のとおりである。

同三は判例違反をいうが、その採るを得ないことは、前記弁護人遠藤徳雄外一一名の上告趣意第四点に対する説示のとおりである。

その余の論旨は、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由は当らない(所論の理由のないことは、前記弁護人遠藤徳雄外一一名の上告趣意第三点に対する説示参照)。

よって同四一四条、三八六条第一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤朔郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎)

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